1985年9月のプラザ合意を契機に日本経済はそれまでの輸出主導から内需拡大へ大きく路線を変更した。円・ドルレートは85年初の250円台/$から87年初の150円台/$まで劇的に値上りした。国内の金融政策は大幅な金融緩和へと舵を切られ、公定歩合は85年初の5%台から87年初の2%台まで引き下げられた。その相乗効果は絶大で、1990年まで未曾有の好景気をもたらした。この時期、土地・住宅など不動産への需要が急拡大し、価格が急上昇していった。当初これがバブルの始まりであることは認識されていなかった。
バブルの対象となっている有価値の価格が手に負えないほど高くなったとき渦状の貨幣の流入は停止し、やがて逆流を始める。バブルが破裂した後には、渦中の業界に大量の回収不能な債券が残される。残された不良債券の山は腫れ物を切除して膿を出すようにさっさと処理するよりない。債務者の速やかな債務処理と債権者の速やかな不良債券処理(債権放棄を含む)が実体経済の正常化を早めるだろう。貨幣は生産と消費のスムーズな流れをサポートする媒体にすぎないから、バブルで流失した貨幣が実体経済の流れを阻害し、その流れを正常に戻すのに貨幣の注入が必要なら、財政当局主導の下で速やかに行われるのは当然だろう。過度の金融緩和はこのバブル発生の危険性を高めるからその兆候には注意が必要だ。
マジ経82 現在の物価状況は
現在われわれを囲む物価変動はどのような状況になっているのだろうか。生産活動は海外製品との価格競争に打ち勝つ必要からと国内でのシェア拡大をめざしてたゆまぬコスト低減活動が進められている。一方、生産活動に必要な原材料や動力の原料は大半を輸入に頼っている。輸入価格は国内からコントロ-ルすることは難しいため、輸入価格が上れば価格に転化せざるをえない場合もある。市場の圧力面では、生産活動に従事する人々の所得はコスト低減活動の影響もあり伸び悩んでおり、デフレ圧力が主流だ。富裕層や中間層の一部には高価格品志向もあるだろうが。
したがって現在の状況をまとめると、コストダウン型デフレは不断の流れ、コストアップ型インフレは輸入品価格に外為相場が絡んで発生する可能性あり、ディマンドプル型インフレはありえず、逆にディマンドプル型デフレは不断の流れとしてある。このうち、コストアップ型インフレとディマンドプル型デフレは総需要を縮小し結果的にGDPを小さくしていくので、この動きが強くならないよう注意が必要だ。
<エンジェルトランペット> エンジェルはトランペットを下に吹き
マジ経-80 コスト要因主導の物価変動
有価値の生産に必要な原材料や動力あるいは人件費などの1つまたはいくつかが値上りすると、コストが上る。生産者はコストの上昇分を回収するのに売値を上げざるをえなくなる。これは供給力が低下したといえる状況だ。売値が上れば需要が減少する。
逆に生産者が努力の末コスト低減に成功したら売値を下げても利益を保てる。これは供給力が上昇したといえる状況だ。売値が下れば需要が増加する。この関係を供給力と物価変動のイメージ図上で示す。
<百日草> 百日草夏に顔見せ秋までも
マジ経79 供給力と物価変動のイメージ
物価の動きは供給力が十分でない分野ではディマンドプル型のインフレ基調、供給力を十分に持つ分野ではコストダウン型のデフレ基調となる。社会全体でもこの供給力と物価変動の関係は基本的には変わらないとみる。
ここまで考えてきた供給力と物価変動の関係を、需要を横軸に供給力を縦軸にとって以下のような図にまとめた。この図の要点は 需要=供給力 の直線にある。市場取引で物価が安定するのはこの直線上であり、直線より下は 需要>供給力 の領域でインフレ基調、直線より上は 需要<供給力 の領域でデフレ基調となる。現在の日本の状況は事例に示す供給力の大きい社会にあたり、デフレ気味の物価変動になりやすい。
マジ経-77 供給力と物価変動-1
供給力が十分でない分野の需給は景気後退時は需要が冷え込み、もともと不足がちな供給に近づく。したがって物価は上昇から沈静化へ、そして下落へと向かう。景気回復時には供給はゆっくりと回復するが、往々にしてそれを超える需要増により、ディマンドプル型のインフレになりがちだ。最終的には供給が需要に追いついてくることにより、物価は上昇から沈静化へ向かう。
供給力を十分に持つ分野の需給は景気後退時は供給過剰感から安売り競争が激化しコストダウン型のデフレへのルートをたどりがちだ。景気回復時は需要増に供給が速やかに追いつくために物価は上昇ぎみだが据え置きのまま推移することもあり、デフレ脱却としての明確な物価上昇局面には至らないだろう。ただもう1つの要因として、原材料の輸入価格上昇によってそれを使う業種で製造原価が上昇し、コストアップ型のインフレが発生する可能性はある。