人は他の多くの動植物と共に、自然によって与えられる土地や水や空気や日光に育まれて生きている。人が生きていくには衣食住が必要だ。その資源は自然によって与えられている。当たり前のことだが、人はその資源から生活に必要な有価値を生み出している。つまり自然の豊かさが人々の豊かな生活の基盤になっている。このような理由からマジ経-85で提示した自分の考える経済モデル(生命体モデル)には基盤としての資源・エネルギーを描いている。
生産力は自然により与えられたものから有価値を生み出す力だ。我々の経済活動の基盤は地球の自然にあるということを強調してもし過ぎることはないだろう。将来にわたって永続的に豊かな社会を維持していくには、その基盤となる資源や素晴らしい四季の変化を提供してくれる自然の豊かさを壊さないようにしなければならない。
マジ経93 人口減少社会での経済維持
これまでの考察から経済が発展するには経済社会の総生産高MTすなわちGDPが大きくならなければいけない、MTを大きくしていくにはエネルギー変換効率βを大きくしていかなければいけない、との結論に到った。ではβを大きくしていくにはどうすればいいだろうか。βを大きくしていくことは社会を構成する人々の一人当たり生産高を大きくしていくことだから、生産効率を向上させていくしかない。
経済活動が人間社会の活動であるかぎり、経済規模が人口に依存しているのは動かしようのない事実だ。生産面では高齢化社会・人口減少社会においては急速な労働人口減少への対応として生産効率を向上させていく必要がある。これには人口知能やロボット技術の応用などで人の労働をサポートするシステムが必須条件になってくる。また生産や維持管理に必要なエネルギー消費をできるだけ削減していくことも必要だ。したがって管理すべき必要資産を絞り込み維持管理の負担を軽減していきつつ、格差是正を進め一人当たりの生産活動の質を向上させることで生産効率を向上させていくことが必要だ。一方、消費面では人口減少に沿って消費量が減少していくのは必然的だから、格差是正を進め一人当たりの消費の拡大を図っていかなければならないだろう。
<センリョウ> 赤い実の値センリョウ輝いて
マジ経92 格差是正の必要性
豊かな社会になるほど投資効果は小さくなってくるため、投資増によって雇用増を実現するのは難しくなってくるとケインズは指摘している。著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」の中につぎのような記述がある。「完全雇用の状態に近づくにつれて限界消費性向は着実に低下していくというわれわれの想定が正しいならば、さらに投資を増加することによってさらに一定の雇用増加を確保することは、次第に困難となるであろう」
ここに書かれていることを自分流に解釈すればつぎのようになる。豊かな社会になるにつれて投資増分をより多くの総需要増分に結びつけていくのが難かしくなり、最後には総需要増分は投資増分に限りなく近づいていく、すなわち投資効果はなくなっていく。投資は生産増対応分は減少し、生産設備更新や維持管理に必要な分により多く割かれるようになり、投資に伴う雇用増は期待できなくなる。
この結果、豊かな社会になっても非自発的失業は無くならず、社会から貧困をなくしていくことがますます困難になってくる。貧富の格差が大きくなるとその格差は次の世代へと継承される。とくに貧困は何の是正処置もなされないなら次の世代へと継承され(貧困の連鎖)、大きな社会問題として残される。
豊かな社会は生産力や供給力が拡充している一方、貧困層には潜在的需要はあるがそれを実現する貨幣の手持ちがない。しからば社会の富をできるだけ多くの人が享受できるよう貨幣を還流させる仕組みを構築し、それに向けて経済構造を少しずつ変化させていく必要がある。格差是正の努力が実り、貧困層の所得が増えれば実需増の効果となって現れやすいだろう。これがまた富裕層が投資している産業の売上増となって還流し、全体として経済が活性化してくることが期待できる。
<ヒイラギ> ヒイラギのトゲに優しく匂う花
マジ経91 経済予測
このモデルでは経済の実態把握をすると同時に、次の単位期間の経済動向を予測することもできる。α,β,ηの各パラメータは時と共に変化していくので、このモデルを適用する場合は1年単位とか数年単位に区切って実績値を基に値を算出する。そのパラメータを用いて次の期間の経済動向を予測する。経済成長率の予測値は算出した各パラメータα,β,ηを用いて
((β-α)/η-1)×100 (%) と計算される。
しかし計算は可能だが実際には成長率予測は不可能に近い。十分長い時間経過後とは具体的にはどれくらいの時間を指すのだろうか。1年単位とか数年単位に区切って計算するには少なくともその期間中に変動が収束することが必要だ。実はここが不明確で、さらにその期間中にも技術革新は進んでいく。このことによってパラメータαやβさらにηが計算の前提となっている初期値からずれてしまう。これらが経済予測が難しい第一の理由だと考えている。また予測には国内外の経済動向や経済政策動向、国内外の物価と外為相場の動き、異常気象による被害の発生などなど多くの変動する不確定要素が絡んでくるため、これらの要素を加味しない単純計算ではほとんど意味をなさなくなってしまう。自分でもSNA(内閣府の国民経済計算)データを基に各パラメータの算出とGDP予測値の計算、そして実績値との誤差のチェックをしてみたが、とくにバブル崩壊前後数年の誤差が大きく、また計算時の国債の扱い方によって予測値が大きく異なるなど全く使い物にならなかった。したがって、実績データを基に各パラメータを算出し、その値の変動から経済構造の変化を読むことくらいまでしか使えないようだ。
<茶> ふと見れば清楚に白いお茶の花
マジ経90 経済発展の必要条件
経済発展の条件 MT/MT0=(β-α)/η>1 を変形すると β>(α+η)となるから、経済が発展するには経済社会の総生産高を生み出すエネルギー変換効率βが、取込エネルギー係数αと組織維持エネルギー係数ηの合計値より大きくないといけない、ということになる。
いくつかの前提と途中の計算は省略するが、α,β,ηを貨幣流量で表せば、Gを利潤として
α=MS/(Mθ+MS)
β=(Mθ+MS+G)/(Mθ+MS)
η=Mθ/(Mθ+MS)
と表すことができる。 (注;式の導出過程は下記(参考)欄に記載)
経済発展の条件は (β-α)/η>1 だから、社会インフラや福祉の予算を維持しながら経済発展していくには、(Mθ+G)/Mθ>1より G>0 となる。 当然の帰結だが、一定の税収を確保つつも社会全体としては生産の効率を上げることで利潤Gを確保していく必要があるということになる。
<皇帝ダリア> 仰ぎ見る皇帝ダリア風に揺れ
(参考)
ここで、つぎのような等式が成り立つものと考える。
MT = C + G ……………… ⑧
C = MS + Mθ …………… ⑨
MT 総貨幣量(総生産高) C コスト(税含む) G 利潤
MS 材料費,動力費 Mθ 生産関連費用(MS除く),税
総生産高MTは⑧式と⑨式より
MT = MS+Mθ+G …………… ⑩
と表される。
生産効率β’は MT/C で表されるから、⑧式、⑨式、⑩式よりつぎのようになる。
β’=(C+G)/C = (MS+Mθ+G)/(MS+Mθ) ……… ⑪
この値が大きければ大きいほど、生産効率が高いといえる。 このβ’は、前述したエネルギー変換効率βとは異なるが類似のものである。
エネルギー変換効率βをβ’と同様にコストと利潤で表せば②式、③式、⑩式より、つぎのようになる。
β =αMT/MS=α(C+G)/MS = α(MS+Mθ+G)/MS ……… ⑫
ここでβ’の場合にはコストCとして扱われている部分に相当するものが、βではMS/αとなっている。 したがって
α=MS/(MS+Mθ) ……… ⑬
であるとき
β’=β = (MS+Mθ+G)/(MS+Mθ) ……… ⑭
となる。すなわち取込エネルギー係数αを⑬式で表される関係にあるとしたとき、生産効率β’はエネルギー変換効率βに等しくなる。
このような理由からαを⑬式の関係で表す。また組織維持エネルギー係数ηは③式、⑤式、⑭式よりつぎのようになる。
η=Mθ/(MS+Mθ) ……… ⑮
ちなみにマジ経65.で言及した「生産性」はつぎのように表される。
生産性=β /α=MT/MS=(MS+Mθ+G)/MS ……… ⑯
マジ経89 経済を動かす因子-3
各係数α,β,ηの持つ意味から必然的に、αとηは小さいほど、βは大きいほどその経済社会の活力は大きいといえる。途中の計算は省略するが①~④式から経済社会の規模Θは
Θ= Mθ/η +Aexp(-ηt)となる。十分長い時間経過後には
Θ= Mθ/η ・・・ ⑤
となる。Aは時間t=0 のときΘ=Θ0とすれば(Θ0-Eθ/η)となる。 時間t経過後の総生産高MTは
MT= β{(β-α)-(β-α-η)exp(-ηt)}Θ0/η
となる。十分長い時間経過後には
MT= β(β-α)Θ0/η ・・・ ⑥
となる。したがって、十分長い時間経過後には総生産高は初期値(MT0 =βΘ0)に対して
MT/MT0 =β(β-α)Θ0/η/βΘ0 =(β-α)/η ・・・ ⑦
倍となる。
総生産高の初期値比 MT/MT0=(β-α)/η から1を引いた値に100を掛ければ経済成長率(%)を表す。経済が発展するには
総生産高MTが伸びる必要がある。それにはこの式が1より大きいこと、すなわち (β-α)/η>1 であることが必要となる。
マジ経88 経済を動かす因子-2
ここで三つのパラメータα;取込エネルギー係数、β;エネルギー変換効率、η;組織維持エネルギー係数のそれぞれが表す意味について確認する。
生物については、
αは食物を確保するのに必要なエネルギーと体の大きさΘとの関係を示す係数
βは取り込んだ食物を消化して取り出せるエネルギーの総量と体の大きさΘとの関係を示す係数
ηは取り出したエネルギーを体の維持に回す必要量と体の大きさΘとの関係を示す係数
経済社会については、
αは有価値の生産など経済活動に必要な材料や動力を確保するための費用と社会の資産規模Θとの関係を示す係数
βは生産できる有価値の生産高と社会の資産規模Θとの関係を示す係数
ηは生産高の一部を社会の維持に回す必要額とその社会の資産規模Θとの関係を示す係数
となる。
<ススキ> 銀色に光る穂先のススキ好き